不登校児童・生徒支援のための提言(案)

2009年10月 長野県教職員組合

1 はじめに

 県内の不登校児童・生徒の割合が他県に比べて高いことはかねてより指摘され、関係者はその支援のための努力を重ねてきました。昨年度の小学生の不登校比率が全国1位になったことを受け、県教委は「長野県教育の危機」として「教育に携わる全ての関係者が主体的に取り組む必要がある」との認識を示し、9月10日の定例教育委員会では、初めて市郡別に不登校児童・生徒数を公表しました。
 このような数値公表は、不登校になり、苦悩している子どもたちや保護者をさらに追い込むものであり、子どもたちの心に寄り添いながら支援を続けている関係者の努力に逆行する結果になることが懸念されます。今回、市郡別の数値を公表したことで、数値を減らすことに関係者の意識が向かい、そのための圧力が強まることになれば、不登校の子どもたちの自立を阻害する結果しかもたらしません。
 今必要なことは、不登校の子どもたちの苦しみに心を寄せ、成長・発達を保障するために関係者が連携して支援をすすめることです。

2 不登校をどうとらえるか

 全国で12万人を超える子どもたちが不登校の状態にあることは、個々の子どもや家庭の問題に帰すことができない、社会的な理由があるからです。
 第一に、子どもをとりまく家庭や社会の環境が大きく変化した点です。少子化が進行し、地域での子ども同士の遊びの少なさなど、集団の中で育ち自立していく条件は年ごとに悪化しています。保護者は長時間・超過密労働を余儀なくされていたり、非正規労働が広がり、職や収入が不安定な状況に追いやられていたりするなど、子どもと接する時間も精神的ゆとりも奪われています。このような劣悪な労働条件は、家庭生活を不安定なものにし、子どもの発達にも否定的な影響を及ぼしています。このように子どもの成長・発達の基盤が切り崩されてきていることが、不登校が増大している背景にあります。
 第二に、学校や教育制度のあり方の問題があります。不登校児童・生徒の増大とかかわって、日本の「高度に競争的な教育制度のストレス」を問題にした国連子どもの権利委員会の指摘のように、いきすぎた競争や厳しい管理は、子どもたちをバラバラにし、「いじめ」の問題も加わって、子どもたちにとって学校は居心地の良い場になりえていません。また、授業や部活、宿題、塾通いなど学校にかかわる拘束時間が、諸外国に比べて長いことや厳しい受験体制が子どもの生活からゆとりを奪い、ストレスをため込む要因となっています。加えて「全国学力テスト」に象徴されるペーパーテストによる学力評価の押し付けは子どもたちの成長や発達を一面的に評価する傾向を強め、ストレスを増幅させています。
 こうした社会的な背景の中で、様々な要因が重なって、自己防衛反応として学校に登校できなくなる状態が不登校といえます。

3 不登校の支援に向けて

 不登校の子どもたちを支える上で、まず前提となるのは、周囲が不登校の状態を受容し、本人がゆっくり休む中で心身の疲れを回復させ、自ら動き出すのをじっくりと待つことが重要です。この点を基本に据えながら、関係者が下記の点について留意することが大切と考えます。
 @ 不登校には、登校をしぶったり、保健室によく行ったり、欠席を断続的に繰り返したりなど前兆となる現象があります。そのような状況が現れたら、本人の悩みや問題の所在を早期につかみ、援助することが必要です。
 A    本人の緊張や不安、負い目など、もつれた心をほぐすことを心がけます。性急な登校刺激や原因の追究は避け、安心感をもたせたり、信頼関係をつくったりすることを大切にします。
 B    心が安定してくると、自己回復への自発的な動きがでてきます。本人の発達課題・自立に向けての課題に配慮しながら、本人の状態に合わせた働きかけ、援助を工夫します。
 C    学校のとりくみだけでは困難なケースも多くあります。医療や福祉、民間等の関係機関とも連携してとりくむことも必要です。
 D    保護者のつらい気持ちや不安によく耳を傾け、保護者の苦悩を受け止めながら、共に考えていく姿勢をつらぬくことです。

4 不登校児童・生徒の学習権と進路の保障

 不登校児童・生徒の学習権をどう保障するかは、きわめて重要な課題です。そのためには、下記のような配慮が必要となります。
 @    児童・生徒が通える範囲に、何らかの学習の場を設けることが求められます。ただし、再登校を前提としたり、性急に登校を促したりするのではなく、児童・生徒の居場所を保障することを第一に運営されるべきです。
 A    現状では障害児学級や病虚弱児養護学校を学習の場としている児童・生徒も大勢います。学習権を保障する上では、加配等の条件整備が必要です。
 B    高校入試では、不登校をしたことで差別されない配慮が必要です。
 C    不登校経験者が多く進学する定時制・通信制高校、多部制・単位制高校など、学習権保障の立場から条件整備をすすめることも重要です。
 D    不登校児童・生徒の自立を支援している民間施設への公的支援が不十分なために、運営が苦しく、保護者の負担も大きいのが現状です。公的支援を充実させることは急務です。また、施設への通所・通園にあたっての交通費への学割適用や学習費への援助等も必要です。
 E    「親の会」への公的援助も必要です。公的施設使用の無料化や学習会等への講師の交通費補助・運営費補助なども行うべきです。

5 教育行政に求められるもの

 教育行政の役割は不登校児童・生徒の支援に向けて努力している当事者や関係者を励ます施策を実施することです。以下、教育行政に期待する施策について掲げます。
 @    スクールカウンセラーなど不登校に関する専門的知識・技能を持ち、専任でかかわれる職員を必要とされるすべての学校に配置すること。
 A    スクールソーシャルワーカー事業を継続・拡大し、活用しやすい体制をとること。
 B    養護教諭の配置基準の抜本的な見直しを国に働きかけるとともに、県としても複数配置校を拡大する努力をすること。
 C    不登校にかかわる研修の機会を充実すること。
 D    不登校児童・生徒支援ネットワーク整備事業を拡充し、民間施設やNPO等へ予算措置を含めた支援をすること。また、民間施設やNPO等の抱えている課題を把握し、ともに不登校児童・生徒の支援できる体制をつくること。
 E    国に30人学級の実現、教職員定数の改善を働きかけるとともに、当面、県独自の30人規模学級を中学校・高校まで拡大すること。
 F    教職員が、日常的に児童・生徒の声にゆとりを持って耳を傾けられる学校体制づくりができるよう教育条件整備につとめること。

6 学校づくりと教職員集団づくり

 常に多忙の状態にある中で、ともすれば児童・生徒をいかに学校に適応させるかに力を割いてしまう実情が、残念ながら学校現場にはあります。この中で関係者が力を合わせて多様な児童生徒を受容し、はぐくむ力をつけていかなければなりません。
 また、課題を抱えている児童生徒を担任が1人で抱え込むことがないよう、学校全体で子どもの成長を支えることができる学校づくりと教職員集団づくりが求められます。

7 共同のとりくみ

 不登校児童・生徒を支援する上で、家庭と学校はもちろんのこと、専門家や教育行政、「親の会」や民間のNPO等との連携は欠かせません。必要なネットワークづくりをすすめることが求められます。